2007年03月11日

Reby Tears

あなたの涙は痛いと知った
純粋なる故に、この身を引き裂くのだと――


あなたの精神はとても危うい
生を憧憬し、命を愛する心と
終わる者たちの叫びに同調する心
大きく揺れる振り子が行ったり来たり
いつか折れる、その日まで


「ン、あ……ん」
男にしては珍しく、緩やかな愛撫を繰り返していた。
背後から体をすっぽり覆い、淡く色付く突起と汁を滴らせる肉塊をじれったく扱っている。

じわじわと、彼を侵食する。

「……も……ッ、もう、なお……っ!」
高耶の腰が揺れてきて、焦れったさを訴える動きに変わった。
それを十分わかっていながら、男は眼を細めただけでそれ以上の手管を使おうとしない。
時折、意地悪く先端を引っ掻いては、悲鳴をあげる高耶を見ているだけだ。
彼を狂わせたかった、自分という男に。


大勢の仲間が死んだ。
抗うこともできず、己の死を理解できた者がその時どれだけいただろうか。
前代未聞の新兵器という殺戮兵器に、赤鯨衆は右翼部分を一気に削られた。
たった一瞬の、眩い光によって消滅した多くの魂。

隠れて涙を流す彼に痛ましさを感じると同時に、どうしようもない腹立たしさが込み上げた。

――あなたはこんなことで苦しまず、俺だけを見ていればいいんだ。

気が付いた時には、彼の腕を引いて空き部屋に連れ込み、服を引き裂いていた。


「はや……く、なおえぇッ」
高耶の声に哀願が混じり始めた。ここまできたら、彼の瞳には自分しか映っていないだろう。
やっと満足する反応を得た直江は、臀部に荒々しく己を突き刺した。
「ッ、ア――……ッ!」
突然の変貌に、弛緩した躯が一気に緊張して跳ねた。
悲鳴が長く続く。
男を受け入れる場所は固く強張り、高耶は顔を顰めていた。
まるで自分を拒んでいるようでそれすらも許せなく、無理矢理身を進めて己を叩きつけてやった。何度も何度も、高耶の悲鳴が擦れるまで。
制止を叫ばれても止められない。
暴走は、自分でさえコントロールできない。

体液をぶちまけて、全部を自分に染めてやりたかった。
彼の見るもの全てを自分にしたかった。
彼の思考を奪いたかった。
高耶の眦から生理的な涙が零れる。彼を泣かせる資格すら、自分にしかないものだ。

――あなたは俺のためだけに、泣けばいい。

彼には決して通じないことを願っているとわかっている。
それでも溢れて止まない独占欲とやり切れなさをぶつける場所は、彼の中しかない。

「直江……それはできない」

ほら見ろ。返ってくる答えなんて始めからわかっているのに、ひとりでもがき苦しんで廃液を撒き散らしている哀れな男。
彼はこれっぽっちも、自分の色に染まっちゃいない。

高耶の瞳は、今の今まで快楽と苦痛で気をやっていたとは思えないほど静謐で、心に染みとおるようだった。
男の苦悩を知っているからこそ、彼は自身の想いを伝えようとする。

「あいつらの……声が聞こえたんだ」

直江ではない、遠くの誰かを見ている。

「魂を引き裂かれる時の、一瞬の叫びが頭にこびりついて離れない……! この道を選んだのはオレなのに、終わりたくない奴らと一緒に戦うと決めたのはオレなのに、わからなくなる……!」

高耶は頭を振りかぶって蹲った。
震える獅子の子供のように、無防備で哀れな姿だ。
誰の庇護も当てにせず選んだ道を、誰かに認めて欲しいと願う甘えた心。
これまで彼を囲っていた四百年の檻は予想以上に彼を縛り付け、想像以上に過酷で矛盾を孕んだ道が、彼を苦悩と懊悩に突き落とす。
そう、直江の懊悩より遥かに重く、辛い、十字架を背負っている。

きっと今、彼が欲しているのは自身と自身の進む道の肯定だ。
直江ほど、高耶の気持ちを理解できる人間は他にいない。
だから息を吸い込み、重い扉を開くように口にした。

「あなたは、正しい」

何度でも言う、彼が望むなら。
彼の正しさを、自分以上にわかる者はどこにもいない。
それでもこの胸の苦さは沈殿して溜まっていく。
このままでは彼が遠くへ行ってしまう。そのことを認めろと!?

誰よりも正しいとわかっていながら、誰よりも認めることができない。
そんな生き方を誰が望んだというのだ。
そしてまた、彼の躯にぶつける他に為すすべがない。


高耶は無心に、貪るように男の言葉を追っていた。
それだけが今の拠り所というように。
哀しさを存分に含ませた、凛とした重い声が耳朶を震わせる。

何度も繰り返される呪文のようになった時、涙が再び頬を伝った。
それは純粋さ故に透明で、苦しむ故に美しかった。

――あなたは正しい。


彼の瞳から零れるクリスタルは、この世の全てに染み渡る。
世界で最も価値のある、珠玉の兵器。


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1999/08/21 初出
2007/03/11 改稿

有紀さん・塔子さんとのサークル「Ruby Teras」で初めて出した本(サークル名と同タイトル)に掲載したもの。自身のサークル同人デビュー作です。
しかしこれ以前に、ゲストで参加させてもらってるので本当のデビュー作はもうちょっと過去にさかのぼります。それはまた別途。
posted by akiya at 21:45| ミラ小説アーカイブス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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