2007年02月28日

Dear amadeus...

曲がりくねった狭い山道の途中にある、鬱蒼とした木々に囲まれた小さなバス停に、私は降り立った。
ドアが開いた途端、ザザン、と波の音が大きく聴こえてきた。

視界を遮る木々の向こうには、雄大な海が広がっている。
そこは、大堂海岸と呼ばれる場所だ。
その展望台まで私を乗せたバスは、排気ガスを土産に足早に去っていった。

念のため、次のバスが来る時刻を見る。

「あー……、一時間後までないのかぁ」

落胆ではない。バスの本数が少ないのは、最初からわかっていたことだった。
私はこの旅の大切な時間を割いても、ここに来たかったのだ。

目の前にこじんまりと立つ、小さな白壁の展望台を上っていく。
一階を通り過ぎ、そのまま二階へ。
階段の最後の一歩を上り終えると、急に視界が開けた。

展望台の上は、ひと部屋くらいの広さしかない。
そこには誰もいなかった。

周囲を見渡せば、三百六十度の絶景が広がる。
海は、その三分の二以上を占めていた。

展望台を吹き抜ける風が気持ちいい。

信じられないくらいの青い海と青い空が、どこまでも広がっている。
これが見たかったのだ、と私は思った。

向こうに視界をやれば、遥か彼方に沖ノ島と小さなたんこぶのような姫島が見える。
こうしてじっとしていると、心がどこまでも開放されていくようだ。

バスが来るまでの一時間、何をしていようか。
海を見ながら物思いに耽るのもいい。
誰もいない展望台にひとりきりなんて、そうそうあるもんじゃない。

しばらく私は壁にもたれてぼうっと景色を見ながら思考に耽っていたけれど、段々と立っているのがしんどくなってきた。

まぁいいか。
誰もいないし、座っちゃえ。

ペタンと床に尻をつき、足を投げ出して、後ろ手をついて空を見上げてみた。
こうすると壁に遮られて海は見えないけど、この場所の体温を感じる気がする。
目に見えないからだろうか。さっきより波の音が鮮明に体中に迫ってくる。

「…………」

ふと、その時頭に浮かんだフレーズを、唇が勝手に紡ぎ出していた。
自然と出てくる懐かしい旋律。

この歌、意外と海に似合うじゃん、なんて新しい発見をして。
私は心のまま、歌いつづけた。


誰かを想うのではなく、ただ歌いたい。
あなたを想うことは、きっとそこから始まるのだから。

Dear amadeus...


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2003/02/21 初出
2007/02/28 改稿

七青さんの愛情溢れるイラストに付けたもの。
出てくる人はミラージュを生み出したあの方です。
雑誌コバルト2000年8月号を元にイメージしてます。
これと対になるような、もう一遍の小説があるので別途載せます。

ちなみに今日は自分の誕生日ですw
今の自分を形作ったものとして、それに関わるこの作品を載せました。
posted by akiya at 09:16| ミラ小説アーカイブス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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